西加奈子『こうふく みどりの』
大阪に住む中学生、緑が主人公。
『こうふく あかの』とシリーズもの、上下巻のように見えるが、舞台や時代設定は大きく異なる。
2つに共通しているのはプロレスラーの猪木さん。
『あおい』でもでてきたこのキーワードは、作者さんにとっても何か思い出のあるものなのだろうと思った。
西さんは登場人物の人生をとても自然に描く。わざとらしい悲劇を用意したりしない。
死ぬということの当たり前さと同じように、悲劇も喜劇も或る日突然当たり前の顔をしてやってくる。
みんなに平等に。
みんな何かしら大変で、みんな生きてるのよ、と。淡々とした文には命を感じる。
シゲオを刺してしまった夫が、刑務所で妻と猪木の言葉を復唱するシーンは印象的だった。
びっくりするようなシーンではないのに、それを復唱する2人が、殺人を犯したのにも関わらず、すごく清らかで、ハッと息を呑んでしまった。
その息は心臓を回って、どくりと鼓動を1つ大きくした。
どこの誰ともわからない人の心臓を、文字だけで乱れさせてしまう。作家って本当にすごいと思った。
だから本ってやっぱり捨てられないし、手元に置いておきたいと思う。
理解できない、感動できない本だったとしても、いつかそれを必要とする日が来るかもしれない。
その時まで本は、じっとページを閉じて待っていてくれる。