■
お風呂にはいってぼんやりと考え事をしていた。
大学卒業まじかになって、今までの自分の時間の過ごし方を少し悔やんだ。
常に人と一緒にいて、一人の時間がなかった。
へこんだらすぐに励ましてくれる人がいた。
自分で自分を励ますことを忘れてしまった。
好きなアーティストを聴きながら、その心のこもった歌詞に涙を流すことや、日記にグリグリと愚痴を書くことや、大声で好きな歌を歌うことが減った。
とても大切なその時間を好きな人に捧げていた。
好きな人といることの方を選んだ。
私はもう少し私と話す時間が欲しい。
一人の部屋がないとやっていけないと思った。
お風呂に入りながらそんなことを考えた。
でもこんなこと、もう何万回も考えてきたんだけれど。
浴室をぐるりと見回した。石鹸やシャンプーや、少し黒くなった壁のタイルや、白い桶。
テレビの画面からは、どこかのラジオが流れていて、そんなに有名でないアーティストが歌を歌っている。
ふと思った。
このラジオも、この白い桶も、私が選んだものじゃないってこと。
これ、私が本当に心から選んで使っているものじゃないって。
この歌も、なんで耳に入れているのかもわからないし、シャンプーだって別に愛をこめて使っているわけじゃない。
この浴室にあるものは、全部私以外の人間が作ったものなんだと気づいた。
私がつくったものなんか、何一つない。知らない人が作った優秀なものに囲まれて、恐怖に襲われた。
私ってなんて価値がないんだろうと思った。
何も作ったことがない。
作ろうとも思えない。
苦しい。
私がしたいことってなんだろう、なんてバカみたいなことを一年ほど考えているけれど、あるわけがない。
なにもつくったことがないんだから。
足が止まりそうになる。
一体私の人生は誰のためのものなんだろう。
正直にいきれない自分に疲れた。
もっと幸せな子供時代をきずきたかったとか、お門違いな言い訳さえ頭に浮かんでくる。
十分私は幸せだ。
私を不幸せにしているのは私だ。
だからここが踏ん張りどころなんだ。
この無力感を消すには、とにかく前に進むしかない。