乃南アサ『しゃぼん玉』

今回は初めて読む作家さん、乃南アサさんです。

ちょっとした描写から容易に登場人物の人格を想像できるくらい、分かりやすい文章をかく人で、スピード感もありページをめくる手が止まらず。

 

『しゃぼん玉』の主人公は、強盗で日々の生計を立てている。地図も何も見ずに一心不乱に逃げた先は、九州の山奥だった。

 

殺す、という考え方を近くに置き、「しょうがない」「仕方ない」という考え方がクセになっている主人公は、そう思うことで自らの罪から目をそらしていた。

 

程度の差はあれど、みんなも思ったことがあるんじゃないか。「めんどうくさい」「知らない」「関係ない」と。

わたし自身にもある。斜に構えて全力で楽しむことをしない、できない。責任を持ちたくないし、新しい環境をまたつくるのであれば、このままぬくぬくと過ごしていたい、と。

 

罪を重ねようとする主人公に焦らされた。

彼は自分がこうなった原因を家族のせいにしている。確かにDVや言葉の暴力など、家が劣悪な状態では成長に大きな妨げとなるだろう。

愛なくして豊かな心は育たない。

 

23歳の主人公は見知らぬ山奥の村で、心の休憩をとる。

温かいお湯で傷口を洗うように、癒えていく傷と、しかし少しの痛みを伴う罪悪感から、主人公は前に進んでいく。

 

人にはやはり温かく愛のある場所が必要なこと、人の内面や背景を知るのは大事なことだと思った。

 

日常すれ違う人々の今までの歴史など、そう簡単にわかるものではないが、本なら、性別の違う人、歳の違う人、国の違う人、犯罪を犯してしまった人、様々な人の背景に触れることができる。

例えそれが作られた世界の話だとしても、読書をすることで多面的に見る力が養われていくとわたしは考える。

 

仕方ないと諦め、逃げる人に、どう一緒に楽しめるか、成長できるか、横のつながりの大切さを、この山奥の村で教えられた。